研究報告: 睡眠の問題は少なくとも日本全体で7.5兆円の損失を招き、仕事のストレスにも強く影響。どのようにしたらカバーできるのか? こどもみらいSTRESCOPE/eSLEEPのデータから明らかに。


国際的な医学誌に睡眠と生産性、および睡眠改善施策に関するこどもみらいの論文が受理され発表されました。

「睡眠不足で日本のGDPは2.9%損なわれている可能性があり、最大で15兆円」とした、アメリカ・ランド研究所の有名な推計があります。
https://doi.org/10.7249/RR1791

しかし今に至るまで、日本において、実際のデータをもとにした調査・研究は存在しませんでした。

今回、株式会社こどもみらい・東京医科大学・慶應義塾大学からなる共同研究チームは、こどもみらいのストレスチェックサービス「STRESCOPE」ならびに睡眠改善サービス「eSLEEP」の実社会におけるデータを分析することで、睡眠と生産性の関係をより精緻に明らかにしました。さらに仕事のストレスに与える影響も分析し、加えて改善の方策についても学術的に明確にしました。一連の本研究が医学誌に受理され発表されたのでご報告します。

(1) 睡眠と生産性の関連

(2) 睡眠と職業性ストレスの関連

(3) 睡眠改善のための具体的な方策

(1) 睡眠と生産性の関連

図1: 睡眠時間と生産性ロス 7時間台睡眠と比較した時の生産性低下

図2: 睡眠の問題の中身と生産性

この研究の結果分かったことは、「とにかく睡眠時間をとることが大切」という単純なものではないということです。まず年齢によってその影響は大きく異なります。若い方(33歳以下)は睡眠不足に非常に弱く、睡眠時間が減るほど生産性も低下する一方で、必要睡眠時間が減少するとされる高年齢世代のたとえば51歳以上では、睡眠時間が7時間を下回っても、特に生産性は影響を受けませんでした。
さらに睡眠をそのコンポーネント(量、質、リズム、日中機能)に分けて詳細に分析した結果、全ての影響を調整すると(重回帰分析を実施すると)、睡眠の長さが大切というよりは、睡眠の質の影響も含めて、「実際に昼間眠くなってしまうかどうか」が生産性低下に重要な影響を与えていることが明らかになりました。
そして、「睡眠に問題がある」と判定される人とそうでない人とでは生産性に少なくとも2.99%の差が生まれ、これはGDPに換算すると7.5兆円に及ぶことが分かりました。

本研究は米国国立睡眠財団の学会誌「Sleep Health」に受理・掲載されました。
出典: Ishibashi, Y., & Shimura, A. (2020). Association between work productivity and sleep health: A cross-sectional study in Japan. Sleep Health. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2020.02.016
慶應義塾大学衛生学公衆衛生学教室・株式会社こどもみらい 石橋由基
東京医科大学精神医学分野・株式会社こどもみらい 志村哲祥

睡眠と職業性ストレスの関連

次いで、仕事のストレスも加味した研究が実施されました。

図3: 仕事のストレスと睡眠と生産性低下

その結果、睡眠の問題は仕事のストレスによって生じる部分はあるも、一部にとどまること(R2=12.1%)。
一方、心身のストレス反応に与える影響は仕事のストレスを凌駕していること(パス係数0.438>0.340)。
そして睡眠の問題は直接的に、あるいは心身のストレス反応を介して間接的にも、生産性低下に影響していることなどが明らかになりました。

本研究は国際的な精神医学雑誌である「Neuropsychiatric Disease and Treatment」に受理・掲載されました。
出典: Furuichi, W., Shimura, A., Miyama, H., Seki, T., Ono, K., Masuya, J., & Inoue, T. (2020). Effects of Job Stressors, Stress Response, and Sleep Disturbance on Presenteeism in Office Workers. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 16, 1827. https://doi.org/10.2147/NDT.S258508
東京医科大学精神医学分野 古市亘、井上猛ら
東京医科大学精神医学分野・株式会社こどもみらい 志村哲祥
他4名

睡眠改善のための具体的な方策

このように生産性や心身の健康に様々な影響を与える睡眠ですが、ではどのようにすれば睡眠を改善させることはできるのでしょうか。特に、医療に至る前の段階で、個々人にできることは何かあるのでしょうか。
日々の生活と睡眠の問題に関する関連を調べました。

図4: 生活習慣と睡眠の問題

その結果、様々な生活習慣が睡眠の問題と関連しており、たとえば上図に挙げられているようなリスクファクターが存在すれば、それを是正していくことで、睡眠の問題を如実に改善させていくことが可能である可能性が示唆されました。この知見は次世代の睡眠衛生指導の基盤となるものです。
なお、本成果を応用した睡眠改善プログラムのランダム化比較試験の効果については既にリリース済です。 (「睡眠改善プログラム「eSLEEP」による生産性向上効果を医学的に実証」 https://cfltd.co.jp/archives/20181225_1133 )

本研究は米国国立睡眠財団の学会誌「Sleep Health」に受理・掲載されました。
出典: Shimura, A., Sugiura, K., Inoue, M., Misaki, S., Tanimoto, Y., Oshima, A., … & Inoue, T. (2020). Which sleep hygiene factors are important? comprehensive assessment of lifestyle habits and job environment on sleep among office workers. Sleep Health. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2020.02.001
東京医科大学精神医学分野・株式会社こどもみらい 志村哲祥
慶應義塾大学経済学研究科・ヒューストン大学・株式会社こどもみらい 杉浦航
東京桜十字 岬昇平、小嶋麻美ら
他5名

株式会社こどもみらいについて

株式会社こどもみらい( https://cfltd.co.jp/ )は、科学的根拠 に基づいた健康経営を推進するプロフェッショナルチームで す。睡眠と健康に関する研究「Sleep & Health Research」、睡眠 改善プログラム「eSLEEP」、多⾯的なストレス対策の要となる ストレスチェック「STRESCOPE」などを提供しています。 

 

STRESCOPE について

STRESCOPE( https://strescope.jp )は、株式会社こどもみらいが提供する、医学的根拠に基づいた具体的な提案によりストレス改善を目指すためのストレスチェックサービスです。厚労省所定の項目に独自の項目を加えてストレス要因を特定し、個人向けに生活習慣の観点も含めた具体的な改善提案を行うほか、集団分析により企業が取り組むべき事項を明らかにするなど、健康経営のための投資対効果にこだわり、精神科医・産業保健師を含むプロフェッショナルチームにより運営されています。

 

eSLEEPについて

eSLEEP( https://esleep.jp/ )は、株式会社こどもみらいが2012年から睡眠研究医主導のもと、医師・心理士・保健師を中心として提供している睡眠改善プログラムです。組織単位で睡眠と生活習慣の問題を医学的に評価・分析し、睡眠コンサルティングと個別指導による改善を通して、メンタルヘルス疾患・身体疾患の予防および生産性の向上を図ります。2015年には教育現場における出席率の向上や退学予防効果も明らかにしました。

 

本件に関するお問合せ先

株式会社こどもみらい info@strescope.jp