[コラム・研究レビュー] 眠りとからだ・こころ
眠りとからだ
日常の活動で生じた体の組織や遺伝子の損傷は、睡眠中に修復されます。また、睡眠中に、組織の各種成長因子などの物質(ホルモン)が分泌されます。睡眠の問題は体の修復機構を機能不全に陥らせてしまうため、かなり多岐に渡る疾患のリスクとなります。
睡眠の「量」「質」「リズム」と生活習慣病(メタボリックシンドローム)
短時間睡眠は様々な基礎疾患に関わります。7~8時間睡眠の者に比較すると高血圧リスクは66%、肥満リスクは55%増加し、脳梗塞リスクが15%、心筋梗塞リスクが48%増加します。人は睡眠中に血圧を低下させ血管を修復し、また、代謝を促すホルモンを分泌します。
中途覚醒(睡眠維持障害)が存在すると、糖尿病リスクが84%増加します。
そして体内時計のリズムと異なった時間での活動を余儀なくされる場合、たとえば休日と平日の睡眠時間帯が1時間乖離するごとに肥満リスクは3.3倍に、あるいはシフトワークを伴う業務に就くと、肥満リスクは1.8倍になります。
Sleep 31.5 (2008): 619–626, Sleep 29.8 (2006): 1009–1014, European Heart Journal 32.12 (2011): 1484–1492, Diabetes Care 33.2 (2010): 414-420, Current Biology 22.10 (2012): 939-943, International Journal of Epidemiology 38.3 (2009): 848–854
睡眠の「量」「リズム」と癌
短時間睡眠は、体が遺伝子のエラーを修復する時間を奪います。6時間未満睡眠は女性の乳がんリスクを62%増加させ、男性の前立腺がんリスクを34%増加させます。
また、交替勤務への就労はがんのリスクを高め、たとえば乳がんリスクを1.3倍にします。特に、朝型な者を夜型勤務に頻繁に配置すると、リスクが3.9倍になります。
British Journal of Cancer 99 (2008) 1502–1505, British Journal of Cancer 99 (2008) 176–178, American journal of epidemiology 173.11 (2011): 1272-1279, Occup Environ Med 69.8 (2012): 551-556.
眠りとこころ
日中の活動やストレス等によって損傷を受けた神経は、睡眠中に修復され、また、シナプスの形成・固定も主に睡眠中に行われます。また、睡眠は情動の整理の役割も持っています。睡眠の問題は脳のメンテナンスの時間を奪ってしまうことで、うつ病などの精神疾患のリスクを増加させ、究極的には自殺リスクを高めます。うつは不眠を伴いますが、うまく眠れないこと、眠らないこと、それ自体もうつを引き起こします。
不眠症状とうつ・不安
「うつ」がなかった人でも、不眠症状が存在していると、その後うつ病になる危険性が2.1倍以上になり、不安症状を生じる危険性は4.3倍となります。
特に若年成人では、2週間以上の不眠が続くと、その後にうつ症状を発症するリスクが1.9倍になります。
Journal of affective disorders 135.1-3 (2011): 10-19, BMC psychiatry 16.1 (2016): 375, psychosomatic research 64.4 (2008): 443-449, Sleep 31.4 (2008): 473-480.
短時間睡眠と自殺
6時間未満の睡眠を継続的に続けている者は、直近1年間での自殺企図の確率が5.1倍でした。そして短時間睡眠はうつ症状とは独立して、自殺企図リスクを上昇させます。
Sleep 31.8 (2008): 1097-1101.
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