働き方改革における「産業医・産業保健機能」の強化


働き方改革関連法により、2019年4月1日より産業医の企業における在り方が見直され、「産業医・産業保健機能」等が強化されました。

産業医の選任は法律義務の遵守が目的であって、産業医を選任することのメリットを理解できていないという企業も多いかと思います。産業医はその活用法によっては、企業にとって重要な経営戦略となり得ます。働き方改革をきっかけに貴社における産業医の活用法を見直してみてはどうでしょか?

今回は、産業医の役割について整理し、働き方改革関連法による「産業医・産業保健機能」の強化について説明していきたいと思います。

 

  1. 産業医とは

産業医とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。従業員のこころやからだの健康を守り、事故や疾患を未然に予防すること、また、従業員の心身の健康相談に応じたり、就労の適否や必要な配慮を判断したりすることがメインの業務になります。

労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられています。具体的には50人以上の事業所には、1名以上の産業医を置くことが必要になります。

 

  1. 産業医の役割

産業医の業務は、労働安全衛生規則第14条第1項に規定されており、具体的には次の事項で、「医学に関する専門的知識を必要とするもの」と定められています。

  • 健康診断及び面接指導等の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
  • 作業環境の維持管理に関すること
  • 作業の管理に関すること
  • 労働者の健康管理に関すること
  • 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
  • 衛生教育に関すること
  • 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること

上記のように産業医の業務は、従業員の健康管理のみならず、職場環境の整備も含まれ、企業経営に関して多岐にわたるのが通常です。すなわち、産業医は、従業員の健康を守るだけでなく、リスクマネジメントの視点から経営者もお守りするのです。リスクマネジメントとして、職場環境の顕在的・潜在的な問題点をあぶり出し、それを除去・コントロールすることの重要性を指摘する、それも産業医の役割で、経営リスクを低減することが可能となります。産業医はただのコストではなく、経営戦略の一つとして位置づけられるのです。

 

  1. 働き方改革関連法による「産業医・産業保健機能」の強化

「産業医・産業保健機能」の強化は、主に、産業医への情報提供義務、産業医からの勧告、産業医等による健康相談、産業医の職務内容等の周知徹底に関してなされています。以下において具体的にみていきましょう。

  • 産業医への情報提供義務

事業者は、産業医に対して、労働者の労働時間に関する情報や労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければならない、という内容が追加されました。これに伴い、事業者は労働者の健康情報の収集や保管・使用・管理についてルールを定め、適正に取り扱わなければなりません。

  • 産業医からの勧告

産業医は、「労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる」とされました。これにより、事業者は、産業医から労働者の健康管理等について勧告を受けた場合、事業所の労働者や産業医で構成する衛生委員会などに報告義務が発生します。従来は、勧告を受けてもその内容を尊重しなければいけないという程度であったため、この点は法律改正によって大きく変更された点になります。

  • 産業医等による健康相談の強化

産業医が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない、との定めが新設されました。事業者の中にはこれまでにも労働者の健康相談を精力的に実施してきたところもありますが、近年の過労死問題なども踏まえ、体制を整備して産業医等による健康相談の機会をさらに増やそうという目的です。

  • 産業医の職務内容等の周知義務

上記に関連し、事業者は、その事業場における産業医の業務内容その他の産業医の業務に関する事項を、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付けることにより、労働者に周知されなければならない、とされました。いつ産業医が来るのか、どのようにすれば相談を申し込めるのかなどを、社内のイントラネットに掲示する、などの取り組みが今後は必要です。

上記のうちで、特に注意しなければならないポイントとしては、産業医への情報提供義務です。義務の対象とされている内容は、いずれも労働者に心身の不調が生じていること、またはその可能性が高いことをうかがわせる事情です。これらの点について、情報提供義務を果たしていない場合、労災事故につながるだけでなく、安全配慮義務違反となるリスクがあります。まずは、心身の不調が生じている労働者の情報を適時適切に吸い上げ、産業医に伝えるという仕組み作りをしましょう。そのうえで、心身の不調が生じた労働者に対して、たとえば残業時間の削減など、産業医の意見を受けて事業者が何らかの具体的な対応を行うことがポイントです。これに関してはエビデンスを残しておくのがよいでしょう。