睡眠とアルコール
「お酒を飲むとよく眠れるなぁ」と感じている方はいませんか?実は、それ誤りです。
お風呂上りのビール、美味しいですよね!残業続きで深夜に気晴らしでお酒を飲む、そんな日もあります。一方で、寝つきがよくないから寝る前にお酒を飲むのが習慣化している、という人も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
お酒はストレス解消になるし、お酒を飲むとよく眠れると思っているあなた、これは大きな誤解です。寝る前のお酒は確実にあなたの睡眠の質を低下させています。今回は、睡眠とアルコールの関係性について説明していきたいと思います。
欧米では寝る前のお酒はナイトキャップと呼ばれます。日本においても寝る前にお酒を飲む人も少なくはないでしょう。特に、日本においては、不眠で悩んだときにお酒を飲む人の割合が国際的にみて高いようです。日本、ドイツ、ベルギー、中国、ブラジル等10か国4万人を対象とした国際疫学調査(2002年)によると、不眠で悩んだときの対策として「アルコール飲用」と答えた人の割合が30%と、10カ国中で断トツのトップでした。日本は「寝酒大国」と言っても過言ではないでしょう。一方で、「医師を受診する」と答えた人の割合は10%未満であり、10カ国中最下位でした。日本人には、「お酒を飲めば眠れる」「眠るためには『医師」よりも『お酒』」と思ってしまっている人が多いようです。
たしかに、お酒を飲むと、一時的に入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間)が短くなります。
しかし、お酒を飲んで眠ると、睡眠の質が悪化するということが明らかになっています。
London Sleep CentreのEbrahim博士らが行った研究によると、アルコールを摂取すると、寝付きは良くなるものの、中途覚醒や早朝に目が覚める早朝覚醒が増加し、特に睡眠の後半に睡眠障害が発生しやすいことが示されています(Irshaad O. Ebrahim,et al. Alcohol and Sleep,Alcoholism 2013;Volume37.4:539-549)。
この原因としては、アルコールが分解されて生じるアセトアルデヒドに強い睡眠阻害作用・興奮作用があること、利尿作用による中途覚醒が起きやすくなること、連日のアルコール摂取に熟睡を阻害する作用があること等が考えられています。また、アルコールの摂取によって血液が固まりやすくなるため、寝酒を繰り返すと睡眠中の脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まり、場合によっては突然死を招くこともあります。
さらに、アルコールの筋弛緩作用により、のどや舌の筋肉が弛緩し気道が狭くなりいびきをかきやすくなります。ひどい場合は、気道が完全に狭窄され無呼吸を引き起こします(これは閉塞性睡眠時無呼吸症候群と呼ばれています)。実際、Paul E. Peppard博士らにより、1日の飲酒量が1杯増えるごとに閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが25%増加することが明らかにされています。なお、ここでの1杯とは355mlのビールまたはワイングラス1杯等に相当します(Paul E. Peppard,et al. Association of Alcohol Consumption and Sleep Disordered Breathing In Men And Women. Jornal of Clinical Medicine 2007; 3(3):265-270)。
これに加えて、寝酒の習慣を長期間継続することによって、アルコールの耐性が高まり、寝つきがよくなる効果を得るために必要な飲酒量が増えていきます。これは、アルコール依存症を引き起こす危険性を高めます。
以上のように、お酒を飲むことは睡眠の質を確実に悪化させます。ぐっすり眠り、すっきり目覚めたいと思うのなら、原則として「お酒は飲まない方がよい」と言えます。
とは言え、会社や友人とのお付き合いで飲まなければならない時や、ストレス解消のためにどうしても飲みたい時もあるかと思います。そんなときは少なくとも就寝3~4時間前までに飲むことを心がけましょう。そして、飲む量はビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度までが望ましいでしょう(個人差がありますが、一般的にビール中瓶1本に含まれるアルコールがある程度抜けるまでには3~4時間かかると言われています)。
また、お酒を飲まなければどうしても眠れないという方は、寝酒に頼るのではなく、睡眠を専門としている医療機関を受診しましょう。